レーシックをうけると、手術の際に角膜の神経が一部切断されるため、ドライアイになることがあります。症状には個人差があり、ドライアイにならない方や、ドライアイがあってもそれを感じられない方もいます。通常は角膜の神経は半年~1年ほどで修復されていきます。
一般的にドライアイの症状は、1週間から3か月程度で改善しますが、なかには長期間ドライアイの症状が続く方もいます。術後は目の乾きに注意していただき、必要に応じて保湿用の点眼薬の使用をしていただきます。症状が強い場合は、数種類の点眼薬を併用していただいたり、涙点プラグ(涙の排水口である涙点に“蓋”をして眼の表面に涙を貯留させて眼が潤うようにする処置)による治療が必要になることもあります。
手術後に暗いところ(夜間など)で光をみたときに、非常にまぶしく感じてみえにくくなったり、光の周囲に光の輪がみえたりすることがあります。前者をグレア、後者をハローとよびます。レーシック術後のグレア・ハローは角膜を切除したことによって生じる収差(これには眼鏡で矯正できないような不規則な乱視が含まれます)やドライアイなど、様々な要因によって起こります。程度にはかなり個人差があり、日常生活でまったく気にならない程度の方から、夜間の車の運転に支障を感じる方まで、様々です。通常は角膜の状態が安定してくるとともに症状が軽くなり、多くの方は3~6か月ほどで気にならなくなります。
レーシックは外科手術ですので、術後感染をおこす可能性はあります。角膜感染症とは微生物が角膜内で増殖し、痛みをおこしたり、角膜を濁らせたりしてしまう状態です。重症になると角膜移植といって、角膜を取り替えなければならないことになる可能性もある危険な状態です。手術では角膜に切り口をつくりますので、その部分では微生物が侵入することを防ぐ体の防御機能が一時的に働かなくなります。レーシックといえど術後数日は切り口から感染のリスクがあるので、適切な点眼治療を行い、裸眼を水につけたりすることは控えなければいけません。
ただし、この感染症をおこす頻度は非常に低く最近の報告では0.1%未満です。このリスクをコンタクトレンズと比較すると、レーシックは手術のときに感染のリスクが最も高く、術後1か月もたてばそのリスクはほとんど無くなります。コンタクトレンズは装用し始めた時には感染のリスクが低く、装用しつづけることでリスクは累積されていきます。したがって、どちらのリスクが高いかということは結論がでていません。もし、万が一レーシック手術後に感染症が発症した場合、それは通常の薬が効きにくい微生物である可能性が高いので、診断と適切な治療を速やかに行う必要があります。
レーシックで失明することはまずありません。ただしごく稀ですが術後矯正視力が低下する可能性はあります。その原因には前述の感染症、角膜拡張症(ケラトエクタジア)、レーザーの照射ずれなどがあります。術後感染症の発生頻度は1万眼以上の多数症例の報告で0.03~0.04%とごくわずかですが、初期に適切な治療をしないと角膜に混濁が残り矯正視力が低下します。しかし術前後の点眼をしっかりすることで感染症は防ぐことが出来ます。日本眼科学会も「レーシック手術はきちんとした知識を持った医師が適切な方法で清潔に手術を行えば、感染症などの合併症が起こる事は非常に希です。―中略―レーシックを初めとする屈折矯正手術は、日本眼科学会が認定する「眼科専門医」が行うべきであることを定めています」としています。
次に角膜拡張症ですが、その発生頻度は1千眼以上の多数症例の報告で0.1%未満とわずかですが、角膜拡張症を起こすと不正乱視を生じ矯正視力が低下します。角膜拡張症の多くは術前の角膜形状不正によるもので、そのほかには、強度近視のため角膜切除量が多すぎて残った角膜の厚さが十分でないことが原因と考えられます。術前の角膜形状に関しては、昔は角膜前面の形状に異常がなければ手術適応とされていましたが、現在は角膜形状解析装置を使用して角膜前面だけではなく角膜後面の形状やエレベーションマップ、角膜厚分布なども総合的に評価して適応を決めるようになりました。そのため以前より厳格に適応選択がなされるので、安心して手術が受けられるようになりました。ただしそれでも角膜形状がレーシック施行にあたりボーダーラインと考えられる場合は、レーシックではなく有水晶体眼内レンズ(phakic IOL:フェイキックアイオーエル)などが推奨されます。
最後にレーザーの照射ずれは手術前から角膜頂点と瞳孔中心がずれている方で乱視が強い方に起きやすい傾向があります。照射ずれが起きると不正乱視を生じ矯正視力が低下します。ただし現在のエキシマレーザーは照射径が大きくなり、照射中もアイトラッキングで瞳孔中心を追尾するようになっているので照射ずれは起きにくくなっています。また照射直前に虹彩紋理を認識して眼球の回旋にも対応できるレーザーもあり、視力に影響するような照射ずれは避けることが可能になりました。
レーシックは眼鏡やコンタクトレンズに依存せずに裸眼で生活できるようになることが目的ですが、手術ですから一回の手術で全ての人が裸眼生活に必要な視力になるとは限りません。そのため初回手術では近視や乱視が残ったり、または時として遠視になる場合がありますが、その際は再手術をすることで裸眼視力を更に向上させることが可能です。この再手術が必要になる割合は2~10%と報告によりばらつきがありますが、これはその対象数や近視や乱視、遠視の度数、さらにはレーザーの機種の違いなどがあるためです。信頼性の高い眼科雑誌の論文で症例数が多いものでは37.932眼で3.8%、3.786眼で1.7%という報告がありますが、本邦の多数症例を手術している施設での結果もこれとほぼ同程度です。また再手術率は近視や乱視の度数が強いほど高く、近視や乱視に比べて遠視では高く、このほか年齢が高い、特に40歳以降では高くなることがわかっています。さらにごくまれですが再手術でも十分な裸眼視力が得られずに再々手術が必要となることがありますが、この割合は0.1~0.3%ほどです。ただしこのような再手術や再々手術を受けるためには十分な角膜厚みが残っていることが大切です。
再手術の時期は視力や屈折度が安定した術後6か月以降に施行されることが多いですが、なかには術後数年以上も経ってから視力が低下したために施行されることもあります。再手術の方法は、以前は初回手術から2~3年経っていると新たにフラップを作製していましたが、現在は術後長期間経ってもフラップを開けることが可能であることがわかったので、フラップリフト(フラップを開ける)でエキシマレーザーを照射後にフラップを元に戻すという方法で行われます。
再手術の問題は初回手術と同様に術後ケアが必要になること、しばらくドライアイぎみになること、わずかの近視度数で再手術をすると遠方の裸眼視力が良くなっても近方が見にくくなる可能性があることです。このほか特に40歳以降では初回手術のフラップが薄かったり創傷治癒が遅いと、フラップの下に角膜上皮細胞が入り込む上皮迷入という合併症が起こり、その除去処置が後日必要になることもあります。 このように再手術は裸眼視力を更に良くできるメリットもありますが、様々なデメリットもあるので、再手術を受けるかどうかは慎重に検討することが大切です。
過矯正とは読んで字のごとく、矯正し過ぎてしまった状態です。レーシックを受ける際に、遠くの視力を良くすることだけを目標にして、最も遠くが見えるように矯正した場合に起きやすい合併症です。角膜は生体の組織ですから、プラスチックや金属と違って、硬いスポンジのようなものです。レーシックに使用するエキシマレーザーは精度の高い機械ですが、生体の組織を削るわけですから、ある程度の誤差が生じます。その誤差はメガネレンズやコンタクトレンズの1段階か2段階(±0.5Dジオプトリー)程度ですが、手術前の設定を強めにすると、誤差が強めに出た場合には過矯正になってしまいます。
過矯正の状態では、パソコン・携帯電話・読書などの近くを見る作業を長く続けると、ピントを合わせる筋肉を酷使して眼精疲労になってしまいます。日頃の診療でも、メガネやコンタクトレンズが過矯正になっている方は時々いらっしゃいます。メガネやコンタクトレンズであれば、度数を変更すれば良いのですが、レーシックの場合には再手術をしなければ治せません。
もちろんレーシックは遠くが良く見えるようにするための手術ですが、あまり遠くの視力だけを追求して、眼精疲労になってしまっては本末転倒です。経験のある眼科医であれば、遠くの視力と同時に近くを見るときにも問題がないように矯正度数に「さじ加減」をするものです。通常はレーシックによって過矯正になることはありませんが、あまり遠くの視力を追求し過ぎると矯正する度数の設定が強くなり、過矯正になる可能性が生じてきます。手術前に担当医とよく相談して、手術後の視力の設定を決めることが大切です。
老眼とは・・・
目という器官はとてもよくできていて、オートフォーカスのカメラがピントを合わせるように、瞬時に対象物に焦点を合わせて、像をはっきり見えるようにしてくれます。若くて視力のいい人なら、遠くの景色を眺めた後、すぐに手元にある新聞を読むことができます。このように、見る対象と目との距離によって焦点を自在に合わせる力、これが「調節力」です。この力は無意識の内に働くため、多くの人はそれが自分の目に備わっていることに気付かず過ごしています。
さて、この調節は、目の中のレンズの役割を担う水晶体が、毛様体筋という筋肉が収縮したり弛緩したりすることによって、その時々で厚みを変え、巧みにピントを合わせることにより行われています。遠くをボーッと見ている時には毛様体筋は弛緩しており、近くのものを見ようとすると緊張します。年齢とともにこの筋肉は弱り、また水晶体も固くなっていくので、「調節力」は少しずつ確実に衰えていきます。この低下は6歳頃から徐々に起こり、40歳を過ぎた頃には、30センチくらいの読書距離にピントを合わすために必要な調節力がなくなってしまい、「老眼」を自覚します。特に遠くまでよく見える「遠視」の人は、常に調節力を使っていますので、通常より早く老眼を自覚します。
よくレーシックをすると早く老眼になると言われていますが、決してそのようなことはありません。しかし、強く矯正しすぎて、いわゆる「過矯正」になり遠視になってしまうと、早い段階で老眼を自覚することになります。そればかりか、遠視になると、目はいつも一生懸命ピントを合わせて見なくてはなりませんので、常に緊張状態となり、眼精疲労や頭痛が起こりやすくなります。
遠くの視力を出すことばかりにこだわり、簡単な検査のみでレーシックを行っていたセンターでは、このような苦情が増えてきているといわれています。 事前の検査に充分な時間をかけて行い、「過矯正」にならないよう適切な度数の矯正を行うことが望まれます。また、40歳を超えたいわゆる「老眼年齢」に差し掛かった方は、遠くが見えることがご自分の日常生活に本当に便利なのか、よくよく考える必要があります。
現代生活では、パソコンやスマートホンなど目を酷使しやすい道具があふれています。そしてパソコン・スマートホン・読書などは、すべて近い所にあるものを見るという作業なのです。人間の目は遠い所を見ているときにリラックスしていて、近い所を見るときには目の中の筋肉を緊張させているのです。眼科では疲れ目の事を眼精疲労といいます。眼精疲労と言えども、放置すれば頭痛・肩こり・吐き気・目の痛みなどに発展して、日常生活にも支障をきたす状態になることもあります。
基本的にレーシックを受けたからといって眼精疲労になることはありません。メガネとコンタクトレンズでは同じ1.0の視力で作ったとしても「見え方」が違うように、レーシックでの1.0も少し違います。見え方として近いのはソフトコンタクトレンズでしょう。レーシックを受ける前に、1.0の視力で生活していた人が、せっかく手術するのだから1.5 にして欲しいと希望してレーシックを受けると、慣れるまでは強いメガネをかけた時のような違和感が出るかも知れません。さらにパソコンなどを1日中見なければならない仕事であれば、眼精疲労の症状が出る可能性もあります。
大切なことは手術前にどの位の視力に合わせるかを、主治医と良く相談する事です。パソコン仕事が中心であれば、視力をあまり遠くに合わせ過ぎると、かえって疲れやすくなってしまいます。目を酷使すれば眼精疲労は誰にでも起こりうる症状ですから、目を休ませる・目薬を使う・パソコンの画面を大きくする・暗い部屋で作業しない、など一般的な眼精疲労対策が必要となります。
角膜には円錐角膜といって、角膜中央部が突出し変形する病気があります。この病気は思春期に発症し、通常30歳くらいまで進行します。進行により、強い近視、乱視となり、角膜が薄くなります。ハードコンタクトレンズという固いレンズを装用しなくては視力がでにくくなります。
レーシックをうける基準として18歳以上で近視進行がほぼ止まっていて、角膜の形が円錐角膜ではないことが必要です。つまり円錐角膜がおこっているかたは手術の適応になりません。しかし、レーシックを受ける方のなかに未発症の円錐角膜の方が存在する可能性は非常に低いですが、全くないとは言い切れません。
未発症の円錐角膜にレーシックをした場合、角膜が薄くなり、円錐角膜の進行を加速させてしまいます。この状態が角膜拡張症といわれる状態で、レーシック後に円錐角膜が進行した状態です。発症頻度は0.1%未満であり、非常にまれな合併症です。2000年代半ばころから、「円錐角膜の疑い」のある角膜を診断することが可能になり、さらに頻度は減少しています。
角膜拡張症が発症した場合には、程度が軽い場合には眼鏡やソフトコンタクトレンズで、程度が強い場合にはハードコンタクトレンズでの矯正が可能です。最近ではクロスリンキングという紫外線照射治療で進行を止められる可能性がでてきました。通常の円錐角膜の進行もクロスリンキングで止められる可能性があります。
クロスリンキングは厚生労働省未認可ですが、ヨーロッパ・米国では円錐角膜治療として広く使用されるようになってきています。
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